株式会社エタニティーズ|IDGs・成人発達理論に基づく組織開発と人材育成

成人発達理論

ADULT DEVELOPMENT THEORY
成人発達理論
人は、成人してからも成長し続ける。
成人発達理論とは、「人は成人してからも、世界の意味づけのしかた(知性のかたち)そのものを質的に発達させ続けられる」ことを明らかにした、発達心理学の理論体系です。

「知識も経験も十分なはずなのに、なぜか変われない」「優秀な人を集めたのに、チームが機能しない」——組織開発の現場で繰り返し現れるこの壁の正体を、成人発達理論は鮮やかに照らし出します。それは、人が成長するとは「何かを新たに知る」ことだけではなく、「世界の捉え方そのものが変わる」ことでもある、という視点を与えてくれるからです。


なぜ今、成人発達理論なのか

変化が速く不確実な時代(VUCAからBANIへ)において、組織が直面する課題の多くは「正解を知っている人が指示する」だけでは解けなくなりました。求められているのは、一人ひとりが自ら判断し、複雑さや曖昧さに耐えながら前へ進む力です。

ところが、この「力」は知識やスキルの量では測れません。同じ研修を受け、同じ情報を持っていても、ある人は複雑な状況を一段高い視座から捉え、ある人は混乱に飲み込まれる。この差は能力の優劣ではなく、世界をどう意味づけているか=知性の構造の違いから生まれます。成人発達理論は、まさにこの「目に見えない器の大きさ」を扱う理論として、人的資本経営やリーダーシップ開発の文脈で再評価されています。

AIが知識や分析を急速に代替していく時代だからこそ、「何を知っているか」よりも「どんな意味づけのしかたで世界に向き合うか」が問われる——成人発達理論は、その問いに正面から答えるフレームワークです。

理論の核心──「主体」が「客体」になるとき、人は発達する

成人発達理論を体系化した代表的な存在が、ハーバード大学教育大学院 名誉教授 ロバート・キーガンです。キーガンは発達を、「次々と質的に異なる、意味のつくり方への移行」として捉えました(構成的発達理論)。

主体(subject)それになりきっている状態 自分=感情 感情や前提に埋め込まれ、距離をとって眺められない 客体(object)持って、扱える状態 自分 感情 一歩引いて眺め、検討し、扱える 発達主体が客体になる

図:主体・客体のシフト

その鍵となるのが、「主体(subject)」と「客体(object)」という概念です。

  • 主体とは、私たちがそれに「なりきっている」ために、距離をとって眺めることができないもの。自分の前提・感情・信念に「埋め込まれている」状態です。
  • 客体とは、私たちが「持つ」ことができ、眺め、検討し、扱えるもの。

発達とは、かつて自分そのものだった見方(主体)を、一歩引いて眺められる対象(客体)へと変えていくプロセスにほかなりません。「自分の感情に振り回される」状態から「自分が感情を持っていると気づき、扱える」状態への移行——この主体・客体のシフトこそが、知性が一段深まる瞬間です。

知性が育つ3つの段階

キーガンは知性の発達を複数の「段階(orders of mind)」として整理しました。組織で働く人にとって本質的に重要なのは、次の3つの移行です。

① 環境順応型知性(Socialized Mind)

所属する集団や周囲の期待・価値観によって、自分のあり方が形づくられる段階。チームへの忠誠心や協調性の源泉である一方、「周囲の期待」が主体であるため、相反する期待の板挟みで身動きが取れなくなりやすい。

② 自己主導型知性(Self-Authoring Mind)

他者の期待を「客体」として眺め、自分自身の価値観・判断基準という「内なるコンパス」で世界を編集できる段階。自律したリーダーに不可欠な知性です。

③ 自己変容型知性(Self-Transforming Mind)

自分の価値観や枠組みそのものすら相対化し、複数の体系を行き来しながら、矛盾や対立を統合できる段階。最も複雑な変革課題に向き合う際に力を発揮します。

水平的成長と垂直的成長

成人発達理論を理解するうえで欠かせないのが、二種類の成長の区別です。水平的成長は「何を知っているか・何ができるか」の拡張、すなわち知識・スキル・経験の蓄積です。一方の垂直的成長は「どのように世界を解釈するか」という意識の構造そのものの変容を指します。

多くの人材育成は水平的成長にばかり投資してきました。しかし、複雑な適応課題に向き合う器を育てるのは垂直的成長です。両者は対立するものではなく、垂直的成長は既存スキルすべての「運用の質」を底上げします。

理論を学ぶときに押さえておきたい3つのこと

成人発達理論は人と組織を理解するための強力な視点ですが、表面的に受け取られたまま使われることも少なくありません。専門的に扱う上で、次の3点はとくに押さえておく必要があります。

段階の高さは、人間としての優劣ではない

発達段階は、人格の優劣や道徳的な上下を表すものではありません。示しているのは、「その人が直面している状況の複雑さに対して、ものの捉え方がどれだけ追いついているか」という関係性だけです。段階の高い・低いで人を値踏みする使い方は、理論の本来の意図から外れています。

発達は一直線の階段ではなく、揺らぎながら進む

発達は、一段ずつ確実に昇っていく階段ではありません。大きく伸びる時期と足踏みする時期があり、ときには以前の段階に戻ることもある——揺れ動きながら進んでいくものです。同じ人でも、得意な領域では高い段階で考えられる一方、強いプレッシャーのもとでは一時的に以前の段階に引き戻されることもあります。発達は一度手に入れたら消えない「肩書き」ではなく、状況によって現れ方が変わる、生きた働きなのです。

段階を「測ること」より、その人を理解することが大切

発達段階を見立てる手法は発展してきましたが、「正確に測ること」と「現場で役立てること」は必ずしも一致しません。数値や段階そのものを目的にしてしまうと、その人の実像を見失います。大切なのは、段階を当てることではなく、本人の語る言葉と、その人が置かれている状況を、ていねいに読み取ろうとする姿勢です。

これらを踏まえると、成人発達理論は「人を段階で分類するための道具」ではなく、「一人ひとりのものの捉え方を理解し、次の一歩の成長を支えるための、対話の地図」として使うべきものだと分かります。

組織開発での実践──「心の免疫マップ」が照らすもの

成人発達理論の真価は、抽象的な段階論にとどまらず、実際に人と組織の変容を起こす実践にあります。その代表的な手法が、心の免疫マップ(ITC:Immunity to Change)です。

変わりたい気持ち無意識のブレーキ ① 改善目標本当に達成したいこと ② 阻害行動目標に反してやってしまう言動 ③ 裏の目標無意識の自己防衛の目標 ④ 固定観念正しいと信じ込んだ前提 固定観念を安全に検証する小さな実験 主体だった思い込みを「客体」として眺められるようにする = 垂直的成長を促す

図:心の免疫マップ(ITC)の4枠

変わる必要を頭で理解していても、多くの人は行動を起こせません。それは、変化を無意識に阻む「裏の目標」と「強力な固定観念」が作動しているからです。心の免疫マップは、この見えない構造を4つの問いで可視化します。

  1. 改善目標——本当に達成したいこと
  2. 阻害行動——その目標に反して、実際にやってしまっている言動
  3. 裏の目標(競合するコミットメント)——阻害行動を生んでいる、無意識の自己防衛的な目標
  4. 強力な固定観念——裏の目標を支えている、疑う余地もなく正しいと信じ込んでいる思い込み

この4枠を埋めていくと、「変われない」のは怠慢ではなく、自分なりの合理性に基づいた精巧な自己防衛だったと見えてきます。そして固定観念を安全に検証する小さな実験を重ねることで、主体だった思い込みを客体化し、垂直的成長を促していくのです。

この手法は、キーガン教授のもとで直接学ぶ機会を得て、それ以来、対話の現場で大切に使い続けてきたものです。実際にチームで心の免疫マップを描いていくと、印象的な変化が起こります。「変わらないのは、あの人のせいだ」という他責のまなざしが、「自分にも、手放せずにいる固定観念がある」という静かな気づきへと置き換わっていくのです。

この場面で、ファシリテーターが担う役割は小さくありません。人が長年握りしめてきた固定観念は、ただの思い込みではなく、その人を不安や失敗からずっと守ってきた、いわば心の防具です。だからこそ、それを手放すことには痛みと怖さが伴います。「変わりたいのに変われない」のは弱さではなく、心が自分を守ろうとする自然な働きなのだ——この仕組みを深く理解したうえで関わることが、支える側には欠かせません。

ファシリテーターの仕事は、相手を急かして固定観念を「はがす」ことではありません。その思い込みがこれまでどのように自分を守ってきたのかをともに認め、十分な安心の土台を整えたうえで、本人が勇気を出して、自分の意志でその防具をゆるめていくのを、そばで支えることです。守ってきたものへの敬意と、成長へ踏み出す勇気の後押し——その両方を携えて伴走することで、固定観念は「無理にはがされるもの」ではなく「自分から手放せるもの」に変わっていきます。

こうして生まれる気づきは、心理的安全性の土台そのものであり、価値観や在り方の変容なしには解けない問題——いわゆる「適応課題」——に、チームで向き合う入り口になります。

成人発達理論を読み解く3冊

理論をより深く理解するうえで近道となるのが、キーガン自身の著作です。日本語で読める代表的な3冊は、それぞれ「個人の変容」「組織への展開」「理論の土台」という視点から成人発達理論を照らし出します。ここでは邦訳の刊行順にご紹介します。

①『なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践』(英治出版、2013年) 書影

「変わりたいのに、変われない」のはなぜか。本書が示すのは、それが意志の弱さや努力不足のせいではない、という洞察です。私たちの中には、変化を望む気持ちと同時に、その変化を無意識に押しとどめようとする「裏の目標」と「強力な固定観念」——いわば心の免疫システムが働いている。この見えない構造を可視化する「免疫マップ」という手法によって、理解から実際の変容へと橋が架けられます。先に見た組織開発の実践は、この一冊が土台になっています。

②『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか――すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる』(英治出版、2017年) 書影

個人の発達を、組織全体の真ん中に据えたら何が起きるのか。本書は、一人ひとりが弱さや課題を隠さずに開示し合い、それを成長の糧にする組織——発達指向型組織(DDO)——のあり方を描きます。弱さを見せ合える文化が、人と事業をともに育てていく。成人発達理論が「個人」から「組織文化」へと展開された到達点といえる一冊です。

③『ロバート・キーガンの成人発達理論――なぜ私たちは現代社会で「生きづらさ」を抱えているのか』(英治出版、2025年) 書影

成人発達理論の土台を築いた一冊です。原著『In Over Our Heads: The Mental Demands of Modern Life』は1994年の刊行ですが、その邦訳が2025年4月、長い時を経てようやく世に出ました。原題の「In Over Our Heads(手に負えない、溺れそうな)」が示すとおり、本書の核心は、現代社会が私たちに突きつける要求の複雑さが、多くの人がいま持っている意識の段階を超えてしまっているという、深刻なミスマッチにあります。仕事・対人関係・子育て——あらゆる場面で求められる「自分で判断し、関係を編み直す力」は、実は高度な発達段階を前提としている。だからこそ、成人してからの発達が誰にとっても切実なテーマになる、というメッセージです。30年を経てなお色あせない理論の原点が、いまようやく日本語で読める——成人発達理論を学ぶうえで、避けては通れない一冊です。

成人発達理論は、ハーバードでの40年におよぶ研究に裏打ちされた、確かな理論です。人が生涯をかけて「ものの見方の器」を広げ続けられることを、実証をもって明らかにしてきました。知識やスキルの習得だけでは立ち行かなくなった今、「人そのものが育つとはどういうことか」を問うこの理論は、これからの人材育成において、ますます欠かせない本質的なアプローチになっていきます。

他の理論・IDGsとのつながり

成人発達理論は、組織開発の主要な理論と深く結びついています。

  • 発達指向型組織(DDO:Deliberately Developmental Organization)——成人発達理論を「個人」から「組織文化」へと展開した組織モデル。
  • U理論——過去の延長で判断する自分を手放し、いま立ち現れている可能性から行動するという U理論のプロセスは、「主体」を「客体」として手放していく発達の動きと深く重なります。
  • 学習する組織——「メンタルモデル」という概念は、キーガンのいう「固定観念」と響き合います。
  • IDGs(内面の発達目標)——5カテゴリー・25のスキルからなるIDGsの「BEING(自分のあり方)」は、まさに垂直的成長が扱う領域です。

よくある質問(FAQ)

成人発達理論とは、簡単にいうと何ですか?

人は成人してからも、知識やスキルだけでなく「世界の意味づけのしかた」そのものを質的に発達させ続けられる、という発達心理学の理論です。この理論を体系化した代表的な研究者のひとりが、ハーバード大学教育大学院の名誉教授ロバート・キーガンです。

発達段階が高いほど優れているのですか?

いいえ。段階は人格や能力の優劣ではなく、「環境からの要求の複雑さに、意味づけの構造がどれだけ見合っているか」を示すものです。段階で人を序列化する使い方は誤用です。

成人してからも本当に発達できるのですか?

できます。鍵となるのは、「今の自分のやり方では立ち行かない」と感じるような、少し背伸びのいる役割や課題(挑戦)と、それを安心して乗り越えられるよう支える上司や同僚、対話の場(支え)の両方がそろっていることです。たとえば、これまで担当者だった人が小さなチームを任される、率直なフィードバックを受け取りながら内省する機会が用意されている——こうした「挑戦」と「支え」がかみ合った環境のなかで、人のものの捉え方は一段深まっていきます。どちらか一方だけでは、人は萎縮するか、変わらないまま留まってしまいます。

組織開発にどう活かせますか?

活かし方は、大きく「個人」と「組織」の2つの側面があります。個人の側面では、心の免疫マップ(ITC)を使って、一人ひとりやチームが抱える「変わりたいのに変われない構造」を可視化し、リーダーシップ開発やマネジメント研修、エグゼクティブへの伴走支援につなげられます。組織の側面では、発達指向型組織(DDO)の考え方をもとに、弱さや失敗を率直に開示し合え、それを成長の糧にできる文化そのものを育てていきます。重要なのは、この両輪がそろってはじめて成果が続くことです。個人がいくら成長しても、それを受けとめる組織の風土がなければ元に戻ってしまい、逆に制度や文化だけ整えても、一人ひとりの内面の成長が伴わなければ形骸化します。個人の変容と組織の文化づくりは、車の両輪として同時に進めることが大切です。

参考文献

  • ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒー『なぜ人と組織は変われないのか』英治出版, 2013(原著 Immunity to Change, 2009)
  • ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒー『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか』英治出版, 2017(原著 An Everyone Culture, 2016)
  • ロバート・キーガン『ロバート・キーガンの成人発達理論――なぜ私たちは現代社会で「生きづらさ」を抱えているのか』(中土井僚・鈴木規夫 監訳、野津智子 訳)英治出版, 2025(原著 In Over Our Heads, 1994)
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